たまがわ No.156 2020.7.1
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ALUMNI and ALUMNAE │ 活躍する卒業生伝え受け継ぐ 昨年11月に開催された玉川学園創立90周年記念式典で玉川太鼓と邦楽による「“夢の丘”~玉川太鼓 響奏曲」が披露されました。横浜アリーナに響き渡ったこの作詞・作曲を手掛け、唄ったのは三代目杵屋佐喜(武藤文彦)さんでした。 江戸時代から200年以上続く長唄三味線方の家に生まれ育った武藤さんに伺いました。入学するきっかけは? 父(武藤吉彦さん・高等71)母(武藤里花さん・高等71)、伯父、伯母が玉川のOB、OGでしたので、小さい頃から玉川っ子に囲まれて育ちました。玉川へ通うことは自然な流れだったのかなと思います。伝統芸能を受け継ぐご家庭に生まれて 父方は江戸時代から続く長唄の家系ですが、母はジャズピアニストでしたので、和も洋も関係なく様々な音楽に触れて育ちました。 小さい頃は長唄のお稽古から逃げてばかりでしたが、家業を継ぐことを強制されたことは一度もなく、中高は野球一筋、大学では声楽を専攻し、大好きなオペラやミュージカルの勉強に励みました。ここで培った経験は長唄の演奏にも大いに生かされています。 大学では主に西洋の音楽、文化を学び、友人と二人で訪れたイタリアやスイスなど、海外の文化にも多くの刺激を受ける日々でしたが、その一方で日本人として日本の音楽をもっと知りたい!と思うようにもなりました。 「灯台下暗し」と言われるように、外を見れば見るほど、視野を広げようとすればするほど、自分の足元の事が見えていなかったのです。 卒業後は長唄を一から学び直したいと師匠に弟子入りし、鞄持ちや運転手などの下積み修行に。現代では徒弟制度に賛否がありますが、技術だけでなく、挨拶、言葉遣い、靴の揃え方、服のかけ方、電話の切り方まで、厳しくも愛情を持って教えていただいたことは、どんな仕事にも通ずる何より大切なことであったと、心から感謝しています。 進路には大変悩みましたが、先祖が大切にしてきた「想い」を引き継げることは、何よりもやりがいのある仕事です。これからのこと 新型コロナウイルス感染症によって、各所でご苦労がおありのことと思います。私は市川團十郎襲名披露公演の他、年内の出演予定舞台はほぼ中止、先は来年3月まで中止が決まるなど、舞台の再開はまだまだ先になりそうです。 現代ではエンタテイメントのコンテンツは広がり、国境を問わず自由に選択できる時代となりました。今を生きる自分たちは、先人のたゆまぬ努力に敬意を表しながら「変わらぬために変わり続ける」ことが求められています。「創造なくして伝承なし」「伝承なくして創造なし」ですね。 愛する長唄をもっと面白く!分かりやすく!親しみやすく!これからも決して伝統にあぐらをかく事なく、100年後も200年後も長唄が愛されるように、様々なことにチャレンジしていきたいと思っています。 その一つ、YouTube『杵屋佐喜チャンネル』を開設しました。 子どもから大人まで楽しめる現代の長唄を作ろうという企画のもと、2年前より楽曲とアニメーション制作に取り掛かかりました。 4月1日に第1弾『カレーライスの唄』MVをYouTubeにて公開しました。 トントンと包丁の小気味よい音から始まるカレーライスの唄。カレーが作られる過程が、分かりやすい長唄と雷神や風神、鳥獣戯画も登場しながら温かみのあるアニメーションとともに構成されています。 また、家で過ごす子どもたちのために、CD付教材『三味線でうたおう!子どもと楽しむ長唄童謡』より抜粋した童謡の紹介番組も公開中です。その他、同世代の仲間たちとのリモート演奏や手洗いソングなど、少しでも音楽の力で明るく、そして今まで長唄に触れたことのない方にも聴いていただける機会と思い、ピンチはチャンスと前向きに捉えたいと思っています。玉川の思い出 小学部から大学まで16年間お世話になりましたが、大自然と音楽に溢れた日々は全てが楽しい思い出です。先生方にはよく怒られて沢山ご迷惑をおかけしましたが、「友達は宝」「よく遊び、よく本を読みなさい」という言葉を今でも思い出します。今の自分があるのは、玉川で出会った全ての友人、先生のお陰さまと心から感謝しています。後輩へ 物は盗まれてしまえば無くなってしまうものですが、学んだ知識や感動した体験は一生失うことはありません。 道端に咲く花、木々の間を吹き抜ける風、そして見上げた空からは何を感じますか? 玉川の丘で育んだ豊かな心を大切に、いつか玉川で学んだ歌を一緒に歌える日を楽しみにしています!三代目 杵屋佐喜さん本名:武藤 文彦文学部芸術学科表現コース2005年卒 長唄・唄方。江戸時代より200年以上続く長唄佐門会を受け継ぐ。幼少より三味線を祖父・五世杵屋佐吉に、長唄を人間国宝・杵屋佐登代に師事。6歳で国立大劇場にて初舞台。2002年、父・七代目杵屋佐吉の前名である佐喜の名を三代目として襲名。 現在、長唄の唄方として全国各地の演奏会、舞踊会、歌舞伎公演の他、テレビ、ラジオに出演。市川海老蔵NY・カーネギーホール公演、平成中村座スペイン公演をはじめ、海外公演にも参加。全国各地での子ども、教員向けワークショップの開催、YouTube『杵屋佐喜チャンネル』でのMV配信など、長唄の普及活動にも積極的に取り組む。     www.samonkai.com/第1弾『カレーライスの唄』MV4月1日 公開11

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