きっと誰かに教えたくなる蚊学入門− 知って遊んで闘って −編者:一盛 和世緑書房 1,800円 (税別)▲天井から下がる蚊のモビールとともに顧みられない熱帯病(NTD)部で病気を媒介する蚊の対策を担当蚊の生態から対策、感染症飼育法など一冊に網羅されています。巻末の付録には折り紙で作る蚊の折り方や蚊の歌も納められています。4 新型コロナウイルス感染症拡大により、毎日、不安を抱えながら約3年過ごしてきましたが、世界にはまだマラリアや結核などの感染症で多くの人が苦しんでいます。 昨年、一盛和世さんが世界保健機関(WHO)などで貧しい人々を苦しめているNTD(顧みられない熱帯病)「リンパ系フィラリア症」の制圧に尽力されたことが認められて「第29回読売国際協力賞」を受賞されました。 日本でフィラリアというと一般的に犬の病気と思われていますが、熱帯地域では蚊を介して体内に入りこんだ寄生虫が、リンパ組織に寄生して足が象のように腫れる象皮症や陰嚢水腫を引き起こす病がリンパ系フィラリア症です。発症すると体の変形から活動が制限され、社会から排除されて暮らし向きが悪化。結果、貧困に拍車をかけてしまう恐ろしい病です。蚊の研究から始まり、制圧するために貢献された一盛さんのお話しを伺いました。 お訪ねした江戸川のオフィス「蚊学館」には、一盛さんが活動してまわった太平洋の南の島々のアクセサリーやうちわ、かごなどが整然と飾られている中に、数点の絵がありました。退官後に絵筆を持たれたとのことですが、公募展で入賞するほどの腕前です。その緻密に描かれた絵にも一盛さんのきめ細やかなお人柄を表しているように思いました。して国や地域の生活・文化や環境に加え、政治の違いを理解して活動しなければならないと話されました。「Human well-beingですね」と一言。我ら玉川っ子 │ 活躍する卒業生一盛 和世さん (大学院農学研究科資源生物学専攻1982年修了)オフィス“蚊学館”主宰長崎大学客員教授豪James Cook University プロフェッショナルリサーチフェロー1974年 農学部農学科昆虫学研究室卒業1977年 青年海外協力隊の西サモアにおけるフィラリア症対策のプロジェクトに参加1987年 ロンドン大学衛生熱帯医学校で博士課程取得1992年 WHO職員として西サモアへ。以後、フィジー、バヌアツなどでフィラリア症対策に取り組む2000年 WHO太平洋リンパ系フィラリア症制圧計画(PacELF)チームリーダー2006年 ジュネーブのWHO本部に異動 2010年 世界フィラリア症制圧プログラムの責任者2013年 WHO定年退職2014年 長崎大学熱帯医学研究所フィラリアNTD室 ディレクター2018年 日本でのNTD制圧の取り組みを広める組織 「日本顧みられない熱帯病アライアンス(JAntd)」を長崎大に設立30年間の取り組み 「この病気を根絶したいと30年間、24時間365日、本気で取り組みました」と一盛さん。あたりまえの日常はなく、寝るのも移動する飛行機の中だったとか。「私はそのために生まれてきた」と言いきります。その思いは、制圧できる病気であることを知り、自分にできると地道な作業と妥協しないという姿勢を貫き、光の当たらないところに光を当ててきた活動です。 「以前「全人」の取材の際に『地球は丸い』と色紙に書きました。形だけのことではなく、地球のどこかで起こっていることは、必ず自分につながってくるのです。人間同士で戦っている場合ではないのです。世界には学校に行きたくても行けない、貧困に苦しんでいる多くの人がいるという歪みがあります。今、起きている争い等もこの歪みから起きていると思います」その解決には、現場の仕事を通Human well-being 社団法人 日本WHO協会「世界保健機関」(WHO)憲章にありますが、「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」。人が人らしく生きること。 その言葉は太平洋の熱帯制圧計画チームリーダーとなってからも、島ごとに異なる蚊の生態と住民の生活に合うようにきめ細やかなガイドラインを策定してきた一盛さんの活動を表す言葉であると同時に、願いでもあるように感じました。そして「若い人はちゃんと生きよ」と一盛さん。満たされた状態で生活できていない世界の人々のために、国際協力の場に参加してほしいという思いが込められています。人が人らしく生きるために
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